敗者の言い訳

佐久間 正明

「詩のボクシングに出てみないか」
知り合いに誘われたのは、大会2週間前頃の事だったと思う。
チラシをもらい内容を確認すると、予選・敗者復活・本戦を含めて5本の詩を用意すればいいらしい。もともと詩を書く習慣は無いけど、以前必要に駆られて書いたのが4本程有るし、あと1本書いて出てみるか。

そんな軽い気持ちでいたのが、大会1週間前にBSで放送された全国大会を見て考えがガラット変わった。
「世の中には面白い奴らが結構いる」

大会当日までの1週間で何とか3本書き上げ、いざ会場へ。
当日受付を済ませ参加者リストを見ると、他県からの参加の多さに驚かされた。
予選が始まり、ライバル達のチェックをしながら出番を待ち。いざ自分の番になると、震える足と震える声を押さえつけ、小心者なりに精一杯のアピールで発表を終え。自己評価と批判に苦しんでいるうちに、予選出場者の発表は終わっていた。

「会場にいる方で、他に参加したい方はいませんか」
やめてくれ、これ以上ライバルを増やさないでくれという願いは届かず。
「ハーイ、私も出ます」
美しい顔と声のお姉さまが、リングに上った。
凄い。これまでチェックしてきたライバル達を、忘れてしまいそうな程のインパクト。

どうにか16人の中に潜り込み、本戦の為のくじ引きの結果。初戦の相手は「ハーイ、私も出ます」のお姉さま・・・・・・・・。
「相手にとって不足なし、と言うよりこっちが力不足だなぁ」
ぶつぶつ呟きながらも、なんとか自分を鼓舞しながら迎えた初戦。笑える不幸話をネタに、結構ウケも取り3分が終了した。
次はお姉さまの番。
「流石」「惹きつけられる」「これはヤバイ」「初戦敗退」「・・・・・・・・」
判定は、なんとか僅差で勝ちを拾った。ほっとしながら席に着き、次の方達の戦いを観戦して、判定結果を見たときに気づいた。

「ゲッ、2回戦の相手は阿部さん」
地元でも有名な踊る詩人。全国大会出場経験もある御方。
くじ運の無さを呪いながら、持ってきた原稿を読み直し。やっぱりこれしかないと取り出したのが、決勝で読むつもりだった原稿。
「一番の自信作だから、発表して帰ろう」

判定を見て自分が一番驚いた。またまた拾い物の勝利を抱えて3回戦。
ここまで生き残ったツワモノを相手に下ネタで対抗し、またまたまたの僅差勝ち。
「向かえる決勝の相手は、やはりこの人か」
予選の時から光っていた。独特な語りと絶妙な間。アクの有る風貌。
本当は何者なの 武力也 さん。
残念ながら・順当に・当然の如く・負けちゃいました。
敗北した帰り道、車を運転しながら、即興詩のお題「スカート」をタイトルに1本作品を作りました。
審査委員長、是非聴いてください、自信作です。

 

堀 千明

 詩のボクシングを直に触れるのは全く初めてのことでしたので、ワークショップから参加させて頂こうと思っておりましたら、もう、その時点の空気の味が、詩のボクシングそのものを物語っていたのでした。
 そして、私たちの伝説の先輩である草薙先輩の伝説たる所以を理解しました。

 現在の私は曇ってしまったことよなぁと思ったと同時に、私は今回の詩のボクシングから、「伝える」ということを学びました。作品のかたちが、声が、激しかれ、穏やかであれ、その確かな熱狂を感じられたのです。がらんとしていた私は、およそ第六感までを使った刺激を受けました。また、庄内弁のもつ感覚的な熱っぽさを知りましたので、愛すべきものとして使い、使われたいと思います。

 詩のボクシングはあったかい。

 

詩ボクに参加しての感想

佐藤 神奈

 新潟にはつめたい風が吹きつけています、十月も半ば。おじさん(もとい、実行委員長)からのメールでふと詩なんてものを思い出しました、ってけっこう薄情ですね。
ああ。と記憶の道すじから山形のすでに霧がかった風景を拾い起こし。 

 私なんかは「合宿型」の言葉にのって参加したくちですが。
 会場行って予選出て落ちて終わりでハイさよなら。って悲しいことはない。
 前日、模擬発表をして講評をもらえる。
 他の参加者の皆さんとゆっくり話ができる
 うまい酒がのめる(いやいや)

 これだけでも参加する意味は大きかった。うん。ワークショップでは模擬発表トップバッター。でかなり照れ笑いの発表をしまして(というか笑いすぎ)。楠さんなんで私を一番に指名するんですか!と心の中で叫びつつ、そして発表後には凹み。いい経験なりました。結局、夜中色々考えてて大会を向かえるにあたり一睡もできなかった私ですが(あほです)。
 参加者の方と話して触れ合って、詩のボクシングってなによ。この詩ってどうよ。ってすごく面白かったですね。声、とか、伝える、とかって本来はこんなにリアルなものなのかって、リングに立ったあの感覚は快感です。私の普段がバーチャルすぎるんでしょうか(そうかも)。テレビの枠の外でなくって、写真の縁の外でなくって、リングロープの外でもなくって、もう一度あのリングのまんなかに立ちたいなぁと思う今です。

 

頭の言葉と心の言葉

えんどうすなふきん

今回、山形大会へ参加して一番よかったことは楠師の講演です。師は言葉の迷宮からボクを救ってくれました。長野大会で2回戦で敗れて以来の頭のモヤモヤが、霧が晴れていくように明るくなった感じでした。「理解させることと感じさせることは違うこと」師のお言葉は深い!ボクは「言葉だからまず意味を理解してもらわなければ、始まらないよな。詩的に感じる隠喩を並べ立てても自己満足じゃしょうがないしな」と解りやすくを前提に『詩のボクシング』スタイルを自分の中に作ろうとしていました。でもそれは頭だけで創作された解りやすいけど、心には響かない言葉たち。当然と言えば当然。頭から発信されたものは頭に届き、心から発信したものが心に届く。
やっぱり自然に、心に湧き上がった言葉がいちばんいいんだな〜。あと師から学んだ言葉に「ベスト8ですね!」。長野大会で敗れて以来ボクが使っていた「2回戦敗退!」よりも清々しく、前向きで素敵な言い方。改めて言葉っておもしろいと思いました。
ところで誰か「予選落ち!」に代わる素敵な言い方を教えて下さい。山形大会以降はその言い方を使っていきたいと思いますので。