過去の公演記録 2006年12月公演「庄内町に吹くビンボーな風」

「庄内町に吹くビンボーな風」身近な話題と笑いのストーリー

演出にあたって:大滝聡

写真:大滝聡

今回、演出を引き受けるにあたり、やってみたいことがあった。
それは、町民の「生の声」を、そのまま舞台に載せてしまうことだ。
演技なんかしなくてもいい。発声だってどうでもいい、本当の、本気の、本心からの「声」を、そのままのかたちで舞台に載せてみたかった。
この芝居のテーマは、誰が何と言おうが「まちづくり」である。
劇団響代表で、台本担当の阿部氏は、丹念に町の声を拾ってくれたと思う。本音を語りたがらぬ町民の中にあってかなり神経をすり減らす作業であったろう。
人の意見は十人十色、各々に、各々の考え方があるはず。自治体の合併にしても、賛成、反対、どっちでもないしどうでもいい、いろんな考え方があっていい。その「思い」を、ストレートに投げつけるような芝居を創り上げたかった。
役者の方々と、冗談交じりにいろんなことを話し合った。たぶん、これ以上ないんじゃないかと思うぐらい「まちづくり」についてディスカッションを繰り返したと思う。現実的でなくてもかまわない。これは芝居を創り上げるためのプロセスの一つにすぎないのだ。
「まち」とは何だ。
行政の区割りのことでは、断じてない!
自分たちが共有する意識、共有する空間、暮らしを営む場を「まち」と呼ぶのではないのか?だとすれば、この「まち」を形作るのは、その「まち」に暮らす人々であろう。 私はよく知らないのだが、この「庄内町に吹くビンボーな風」というタイトル、あちこちで物議を醸し出してしまったらしい。所詮、フィクションの話なのだからと笑い飛ばしてくれれば良いのだが、そうもいかないところが世間の風というものか。セリフについても、いろいろクレームがついたらしく、それら台本訂正の顛末をストーリー化すれば、もう一本芝居ができるのではないかと思うほどである。おまけに隣町では、すったもんだの挙げ句、辞職した町長が再選を果たし、まるで今回の芝居の先を越されたしまったかの感がある。
かくも現実とはドラマティックなものである。一筋縄では行かないのが常だ。それはそう、現実の世界には台本なんて無い。これから先、何が起こるかわからないのが現実。当たり前だが、下手な芝居より現実のほうがおもしろい。なぜなら現実の人生は、いつでもその一瞬一瞬が初舞台なのだから。
この芝居については、賛否両論もあろうかと思うが、これもまた「まちづくり」に対する、皆様の意識が具象化された一つの結果だと受け止めてほしいものだ。
誰が何と言おうと、この芝居は町民一人ひとりの物語である。



演出:大滝聡

キャスト

写真:佐藤篤 佐藤篤
役1●稲田風渡(町長)
エッ、私が町長!!絶対(と力を入れる必要もないが)ありえないでしょう。
ハテ、サテどんな町長になるやら。
写真:岡部一宏 岡部一宏
役1●加藤 亮(劇団ヒビケ代表)
「我が子の学芸会を初めて観に行く時の気持ち!?」
で来られた友人たち、上手く出来たら褒めてねっ!
平凡な日々を送るのではなく、自分から飛び出さなければ
楽しさ楽しみはないのでは?
何かをやることしようとすることの
努力を認めるのではなく、出る杭を叩こうとする。
これでは、庄内は変われない!!!
もっと、楽しみましょう、人生を!
写真:高田康子 高田康子
役1●稲田真理子(町長婦人)
役2●老婆
役3●会場アナウンス
脚本 阿部ワールドに足を踏み入れた貴方。
だめだめ、はやく理性の扉に鍵をかけて!!
それでは ごゆっくり お楽しみください♪
写真:飯野つや子 飯野つや子
役1●渡部とよ子(町民評議委員会代表)
役2●支持者3
当日は大勢の方々に観ていただきたいと思っています。一生懸命、そして楽しく演じていきます。
写真:眞田千裕 眞田千裕
役1●武田美緒(中高生議会議長)
役2●難波千佳(総務課)
役3●支持者2
生まれて初めての演劇の舞台…不安や緊張や期待や、何とも言えない気分の高揚で胸がいっぱいです。その高まりを演技に込め、頑張ります!
写真:長南久満 長南久満
役1●岸田 猛(総務課)
役2●支持者4
役3●議会議長
 「焚書は国を滅ぼす」とまで言うと大げさですが今回の芝居には多少の脚本訂正の依頼があったようで、初稿の鋭さが若干衰えた感じがするのはやはり残念に思います。
阿部さんには思うままに表現して欲しいと思いますが、かと言って、それが万人受けするとは簡単には思えないわけです。良薬は口に苦く、諫言は耳に痛く冗談は分かる人にしか通じない。
劇薬を消化するには強靱な内蔵(はら)が必要なのでしょう。胸焼けや腹下しを起こすお客さんの姿が今から目に浮かぶようです。
ただ、目を背けないで見て欲しい。
どんなに変わっていようと間違いなく地元の風土で生育した亜種なのだから。
今回阿部さんの芝居に関われたことを誇りに思います。
写真:鈴木美智子 鈴木美智子
役1●藤井睦美(総務課長)
役2●支持者5
2度目の挑戦なのにまるで初舞台
台詞も中々入らず何時もブツブツ独り言
まだまだ未熟な卵です。どの様に羽化出来るのか?おたのしみ。
写真:石川幸司 石川幸司
役1●齋藤啓太(総務課)
役2●支持者1
芝居するのは久しぶりです。「人が足りないから手伝って」と言われて来てみればずいぶん出番が多い役だこと。…騙された…
写真:阿部利勝 阿部利勝
役1●選対幹事長
役2●TVアナ



ようこそ、お笑いまちづくり劇場へ:阿部利勝

●文化の地産地消について
「地産地消」とは近年はやりの農業用語(造語)で、地域で生産された農作物を地域で消費するという意味です。そこに文化という文字をくっつけて、地域の話題を地域で演じてみようという趣旨にしてみました。そこに地方のアマチュア演劇の生き残りの一つの可能性があるのではないか。
●ビンボーな風について
けっして貧乏風という意味ではありません。作者としては三つの提案。
1.風車のように、やっかいものとされたダシ風を逆手にとって、町おこしにつなげる発想。
2.2割の勝ち組と8割の負け組とささやかれる昨今、ビンボーでなにが悪い、と開き直ることもいいんでないがぁ。
3.多くの地方にこんな風が吹いているとしたら、「さあこれでいあんが」と中央にモノ申すことも必要でねあんがぁ、ということ。
●響ホール創造事業について
このたびは事業推進協議会の創造事業ということで劇団響を取り上げていただき誠にありがとうございます。
今回「合併、まちづくり」をテーマに取材してまいりました。「まちづくり」とは、合併問題しかり、賛成する人、反対する人、応援する人、足を引っ張る人、さまざまな形で意見をいただくこと、と心得まして。
創造事業が、今後とも、おおらかで自由な発想で継続、発展していくことをご祈念申し上げ、お礼の言葉にかえさせていただきます。
●ストーリーについて(自作解説)。
夕張市が財政再建団体に来春から移行するにあたって、約270名の職員を3年後には半減、11の小中学校をそれぞれ1校に統合、という計画案を公表。一部の住民が「脱出」。という記事が新聞に出ていました。
補助金や国からのお金が少なくなったときに、どうする庄内(町)。といった感じで物語は進行します。まったく現実のほうが、先に進んでますね(笑)。
物語の主人公は新町長、稲田風渡です。彼は、いちばんお金がかからない政策として議会の一元制(注1)、町民の予算策定を公約に掲げ当選します。当選後のまちづくりシンポジウムより物語ははじまる。2場は、風車のバンジージャンプ構想が、総務省の99パーセントのトンデモ補助事業(かつての竹下総理時代に一億円いただいた故郷創生資金をイメージ)に総務課職員難波千佳が応募、採用となったということで、町長の公約である、町民予算策定の原案づくり、風車型バンジージャンプのイベントを通してまちづくりを語ります。なぜ、町長と役場職員が中心の芝居なのか?
私は青年団、夢会議、創造ネットワーク研究所と、いわゆる、まちづくりを考える集団のまわりをうろうろしながら馬歳を重ねてまいりました。ちょっと短絡的な視点ですが、やはり、まちづくりに、町長、議員、職員の力は大きいと思うからです。特に今後地方に権限が移ってきたときに、ここの部分がしっかり機能しないと、お上(中央)という対抗軸があってまとまってきた構図が消え、逆に地方の悪い側面がでて風通しが悪くなる、ということが懸念されます。あともう一点、夕張市を見るまでもなく、いかに住民サービスを維持しつつ、財務を健全化していくかという経営手腕も、今後のまちづくりの重要な課題ですし、住民サービスというものの吟味も必要であります。
今回、演劇というフィクションの世界において、町長、職員、議員を舞台に上げることによって、観客一人ひとりに「まちづくり」のありようを問うて行きたい、そんな思いです。なぜなら、町長、議員を送りだしているのはわれわれ住民であり、町長、議員、職員にばかり責任をなすりつけても、まちづくりは始まりません。
格差社会到来といわれている今、周りを見てください。地方にいても都市との物資の格差はなくなっています。インターネットを開けば、オークション始め、欲しいものが、全国から安く入手出来ます。そのことが逆に、チラシのコピーにも使いましたが『ゼイタクを知ってしまった我々は故郷に住み続けられるのだろうか』につながっていきます。都市と地方の格差、また地方のなかでも格差拡大と。
行財政改革がうまくいっても、まだその先がありそうです。あなたの心のなかにはどんなビンボーな風が吹いてますか?
登場人物は、町民の代表として、町長、まちづくり評議委員会代表の渡部とよ子。中高生議会議長の武田美緒。シンポジウムを演出する劇団ヒビケ代表加藤亮。役場総務課職員は、熱血青年の齋藤啓太、定年間近になってもおちゃめな課長、ちょいシニカルな岸田、齋藤の本音を引き出す恋人の難波千佳。トリックスターには、村のばっちゃんと選対幹事長。いずれもが迷いつつ「まちづくり」に参画していきます。
なぜ、これほど大胆な改革に成功した稲田風渡が一期も待たずして辞職するのかという問いに、あえてお答え致します。行財政のスリム化に成功しても極端な改革は歪みや反動がくる、それが怖いんです。彼がただの善い人のうちに辞めさせてあげたかった、感情移入してる分だけ、と言うわけです。極左極右をばっさり斬り住民を煽動してことの恐怖、みたいな。
また、議会の一元制や地方自治制度国際比較の数値(首長、議員の報酬)は、元埼玉県志木市長、穂坂邦夫著「市町村崩壊」より参照、引用させていただきました。
最後になりますが、台本が出来る前から長期間にわたりご指導、そして演出していただいた演劇集団K・A・I主宰の大滝聡さん、ありがとうございました。
さあ、幕があがります。舞台の上で役者の言葉、身体がはじけ、輝き、観客のみなさんにみごとな星空のごとく届くことを願ってやみません。
本日、お芝居を見ながら、ふるさとってなんだろう、というものを感じていただけたなら幸いです。
劇団響代表:阿部利勝

注1)議会の一元制とは、議会が議決権と執行権の両方の機能を持ち、町の代表は議員の互選による議長が務める。よって町長は不要になるわけだが、現行の日本の法律では認められていないため、町長を非常勤で名目上残すという設定。

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